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札幌家庭裁判所 昭和38年(家)1675号 審判 1963年12月02日

申立人 原田章(仮名) 外一名

事件本人 小林一郎(仮名)

主文

本件申立を却下する

理由

当裁判所が申立人原田章、事件本人および事件本人の実父小林弘をそれぞれ審問した結果によれば、(一)事件本人は昭和三八年一〇月まで北海道三石郡○○町の両親の許にあつて同町内の中学三年に在学していたが、同年一一月初頃後に述べるような事情から札幌市の申立人方に寄寓して同市○○中学校に転入するに至つたこと、(二)事件本人の両親は将来本人に大学教育をうけさせたく、そのため高等学校は札幌市内の公立高校へ入学させたい希望であるが、同市内の高校(全日制普通科)への入学については保護者(就学希望者に対して親権を行なう者又は後見人)が当該高校の通字区域と定められた市内の一定地域に居住することを必要とされている関係上、まず事件本人を前記○○中学校へ転入させるとともに上述の学区制で定められた保護者に関する要件を充足するための手段として本件養子縁組が考え出されたものであること、(三)従つて事件本人の今後の生活費や学費については申立人等は一切関与せずすべていままでどおり実父母がこれを負担し、高校卒業の暁は離縁の手続をとる予定であること、ならびに(四)事件本人においても自分の就学の便宜から本件養子縁組の成立を希望するが、いま直ちに申立人夫婦と真の養親子関係に入る意思はないことなどの事実を認めることができる。

そうすると、本件養子縁組は習俗によつて認められた真の養親子関係を結ぶためではなく、俗にいう越境入学の目的を達せんがためたんに戸籍上だけの養子縁組を実現しようとするものであつて、かかる縁組については家庭裁判所として許可を与うべき限りでない。なぜならば、未成年者を養子とする縁組について家庭裁判所の許可を必要とした法の趣旨は、現に結ばれようとしている縁組がはたして養子となるべき未成年者の福祉に役立つものであるかを事前に審査し、これを阻害する虞れがある縁組の成立を防止しようとするにあるのだから、家庭裁判所が許可審判をするがためには当事者間にその許可の対象たる養子縁組の締結が見込まれていることを要するのは当然の事理であつて、本件の事案のように当事者間に養親子としての実体関係を作り出す意思がない場合には、許可すべき養子縁組は存在しないものというべきだからである。

もし本件申立を認容して許可の審判をしたならば、その審判に基いて当事者から養子縁組の届出がなされ、その結果申立人夫婦と事件本人との間に戸籍上の養子縁組関係が成立するに至るであろうことは容易に推測し得るところであり、しかもかかる縁組が成立したからといつて一般の第三者に特に実質的な不利益を及ぼすものではなく、一方事件本人にとつてはその希望にしたがつた就学の機会を得ることになる点においてむしろ利益を加えるものといえなくもない。しかしながら、かくして成立した縁組はあくまで外見上形式上のものにとどまり実質的には無効の縁組というのほかなく、だとすれば本件において許可の審判をすることはとりも直さず裁判所がみずから無効な縁組の外見的成立を積極的に推進する結果になるのであつて、かかることの許さるべき道理がないことは明らかであろう。

以上の次第であるから、本件申立は理由なしとしてこれを却下すべきものとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 小石寿夫)

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